悪趣味な盗み聞きだとは解ってたけど、その時ようやく手話を使いこなせる様になったばかりの俺には、それは例えば外国の街で突然耳に入ってきた。
日本語が気になる様に、申し訳ないけどどうしても気になる光景だった。
たぶん、俺はにやけてたと思う。怪しい奴に見えたかもしれない。
でも、それは微笑ましくて、こっちまで心があったかくなる光景だった。
服の裾が引っ張られる感覚に振り返ると、そこに俺の彼女が来ていた。
何を見てたのかとか、顔が嬉しそうだとか、もっとはやく私に気づけとか、
微妙に頬を膨らませて、もの凄い勢いで手話を繰り出す彼女に、
俺は手話でごめんなさいと伝え、ちょっと昔を思い出してたことを伝えた。
それでも彼女は少し首を傾げ、その”昔”を知りたそうな表情だったけど、
俺は笑ってごまかした。
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